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第8回 リレーインタービュー 松本 庸史 氏

柏のまちづくりに関わる人のリレーインタビューです。(毎月10日に更新予定)

第7回の鈴木さんからのご紹介は、柏たなか農園の松本さんです!

松本さんは農業への思いから、退職後に畑を借り、会社を作り、今年で5年目となる農家さんです。体験農園の他、前回のリレーインタビューの鈴木さんと「こどもたなカー」のコラボレーションイベントなども行っています。

 

柏たなか農園,松本庸史,土の学校

 

氏   名

松 本  庸 史  (まつもと つねふみ)

肩 書 き

柏たなか農園 代表

プロフィール

1947年、東京生まれ。大学で農学を学んだ後、新聞社に就職。新聞と雑誌を合わせて40年近く記者活動に携わるも農業への思い断ちがたく、2008年に農業会社 柏たなか農園を設立、代表に。柏市には1979年に東京から転居、3人の子(いずれも男子)は全員、柏市立富勢小学校卒。

 

 

 

Q1 あなたの柏における関わりを教えてください。

「寝るために柏に帰ってくるだけの柏市民では寂しいよね」――会社勤めしていたころ、ふと耳にしたこんな言葉が意識の底に残っていました。それから数年経ち定年を迎えて間もなく、2008年に偶然柏市北部の船戸地区で畑をお借りして農業を始めることになりました。はじめは個人でやるつもりでいましたが、地元の農家に出資してもらったらどうかと勧められ会社にしました。それが「株式会社 柏たなか農園」です。

こうして「柏に寝に帰ってくるだけのサラリーマン」から「地域農家に協力してもらいながら事業を展開する農家」への転身が始まりました。農園を始めてからの5年間、まさに暗中模索でした。何を栽培すれば良いのか、作物ごとにどのような機械設備が必要なのか、何にもわからないままのスタートでした。そもそも経営として成り立つかどうかの見通しが立っていませんでした。後から考えるとずいぶん無謀なことをやりました。その中で何とかやってこれたのは、地域の農家に株主として参加していただいたことが大きいと思います。農園の作業も運営も経営も実質的に私一人でやっていますが、実際に事業を展開する上では物心両面で言葉では言い尽せぬ支援をいただいております。

Q2 柏で活動することによって何か得られたものはありますか?

とりあえず始めたのが柏市および近隣の流山市、野田市などの都市住民を対象に、野菜作りを教える「体験農園 土の学校」でした。体験農園の先進地域は東京、中でも練馬区は10カ所以上の体験農園があり、区を超えて希望者が集まりかなりの盛況だそうです。柏市を中心とする千葉県北西部地方も大きな都市人口を抱えており、自分自身の経験からしても「農業体験をしてみたい」、「野菜の作り方をしっかり勉強したい」といった需要は必ずあると考えました。しかし、柏地方は東京ほど緑が少ないわけではなく、当初は参加者も思ったほど集まりませんでした。その上2011年の原発事故による風評もあって一時会員が伸び悩みました。その後、柏の農産物に対する放射能汚染疑惑も薄れ、2013年になって会員数も回復してきました。

その次に始めたのが「もち麦」の生産、販売です。これも偶然なのですが、農園を始めて間もなく千葉大学柏キャンパスで開催されている社会人講座を聴講させていただきました。講座の中でグループに分かれての学習があり、いっしょのグループになったあるビール会社の研究員の方に「変わった麦の品種があるのですが、試食してみませんか」といわれてお試し用にいただいたのが「ダイシモチ」というもち性の大麦の品種でした。

当時はぜんぜん勉強不足で「もち」と「うるち」の違いも知りませんでした。お米にもち米と普通のお米(うるち米)があるように、アワ、ヒエなどすべてのイネ科植物の実はもちとうるちがあるそうです。麦もイネ科ですからうるちの他にもち性の品種があるわけです。

家に帰ってさっそくお米と混ぜて炊いてみたらおいしかったのです。以前すったとろろ芋を麦ごはんにかけて食べたことがありますが、もち麦ごはんはとろろ芋などかけなくてももちもちしていて食べやすいのです。その上、食物繊維(βグルカン)が多く含まれる健康食品です。これは行けると思いました。

その年の秋にさっそくもち麦の種を取り寄せ、農園の畑に播きました。翌年5月に農園の畑はもち麦の穂の紫色にきれいに染まりました。問題はここから先です。5月末~6月初めにもち麦を刈り取り、乾燥してワラくずなどを取り除いてやっとお釜で炊くことができるもち麦の形になります。はじめはほとんど手作業でやっていました。麦はカマで刈って、ビニールシートの上で天日乾燥し、「とうみ」という手動式の器具を使ってワラくずを風でとばしました。数百㎏ものもち麦のために6月から7月まで来る日も来る日も力仕事に明け暮れました。

もち麦を刈り取った後の畑には楕円形の「枕スイカ」の苗を植付けました。麦ワラが刈り倒された畑はスイカにとって最良の生育環境になるはずです。スイカは麦ワラの上につるを広げ、スイカの実も麦ワラのおかげでじかに畑の土に触れることなく、雨降りで地面が湿っても腐らずにすみます。その上、ワラの下には陽が当たらず雑草の芽も出てきにくいと考えたのです。

スイカの植付けが遅れると収穫が秋口にかかってしまう心配もあります。そのため、刈り取り後のもち麦の作業と並行してスイカの畝立て、植付けを急がなければなりません。梅雨時なので雨で畑がぬかるみ作業ができない日もあります。どうやっても時間的に間に合うはずがありません。結局スイカ畑では雑草が芽を出し、かなり荒らされました。スイカの実も鳥につつかれ、動物に食い荒らされるなど散々でした。

もち麦も枕スイカも農協など既存の流通ルートに乗せることができません。販路は自前で開拓しなければなりませんでした。そこで最初の突破口になったのが「柏市最大の直売所 かしわで」でした。直売所は既存の流通ルートを通さずに農家の作物を市民に直接販売するお店です。ここからもち麦やスイカの販路を徐々に広げて行きました。

このほか、春はサツマイモの苗を植付け秋にイモ掘りイベントを開催しました。冬には農園のハクサイを使ったキムチ作り講習会を開催しました。いずれも市民に参加してもらうイベントです。

こうして一般市民を会員とする野菜作り講習会、一般市民に直接販売する直売所、一般市民に柏たなか農園の畑に来てもらうイモ掘りなどのイベント――これらを通じて柏市を中心とする都市住民と結びついた「市民直結型の農業ビジネス」を展開してきました。このような活動が展開できたのは、地元農家の支援に加え、原発事故による放射能汚染問題を乗り越えて市民が柏の農業への信頼を持ち続けてくれたからです。この点について柏とその周辺も含めた地域の皆さんに心から敬意を表したいと思います。

Q3 これからの展望、またはこれからの柏に期待することを教えてください。

千葉県北西部地方ほど、農業・農村が身近に存在する大都市圏というのは少ないでしょう。いつでも手の届くところに緑と自然豊かな農業・農村があるということを柏と周辺に住む皆さんにもっともっと知ってもらいたい。そのために柏たなか農園もこれまで以上に多彩な活動を展開しなければならないと考えています。

2013年度は、前回この欄に登場した鈴木亮平さんらの「balloon」の皆さんにカボチャの収穫やイモ掘りなど農園のイベントに参加していただいたり、柏の葉キャンパスのマルシェで農作物を販売してもらったりと、コラボレーションができました。柏たなか農園にとってまったく新しい経験でした。これからも農園単独ではなく、いろいろな活動をしている市民のグループとのコラボによってこれまで考えられなかったような多彩な活動が可能になると期待しています。

 柏たなか農園,土の学校    柏たなか農園 

 3月、土づくりから始める土の学校

 

お父さんも夢中にする秋のイモ掘り

 

柏たなか農園    柏たなか農園

 

 

 

 

収穫間際のもち麦、紫色の穂が美しい

農園の人気者、二匹のヤギくん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回は リレーインタビュー’番外編’

ご紹介するのは 柏市PRキャラクター カシワニくん です!

1~3月はちょっと力をゆるめて番外編のリレーインタビューをお送りします。

今では全国各地で様々な「ゆるキャラ」が生み出されていますが、柏やその周辺地域ではどんな活動をしているのかをご紹介したいと思っています。4月からはリレーインタビューもリニューアルする予定です。ご期待ください☆

 

 <担当者より追記>

リレーインタビューを始めるときに、市内の地域やジャンルを超えてリレーされるといいなぁ、農業も紹介したいなぁ、と思っていました。

私は柏で仕事を始めてから、色々なところで農や食に関わっている方に出会うようになりました。

それまでは農家さんの知り合いがいてもそのことについてじっくり話すことはなかったし、実際にその人たちが作った作物をいただく機会も今よりずっと少なかったです(私に余裕がなかったのかもしれませんが)。ましてや、知り合いが作った野菜が飲食店で料理になって出てくるなんて体験はしたことがありませんでした。

柏では新規農業者や若手農家に意図せず出会うことがしばしばあります。カフェや人づてでどんどん出会います。柏には農家さんがたくさんいるのか、それとも活発に街で活動している農家さんが多いのか、はたまた農と食をつないだり、食育の活動をされたりする人が多いのか・・・もっと知っていきたいなと思っています。

松本さんにはインタビューにもあった「もち麦」を教えていただきました。自分の食生活が少し変わったのがうれしいです^^

 

◎過去のリレーインタビューも読む(トップページに戻ります)

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